神社仏閣の伝承や各地の風習において、「厄年の本人が厄払いをしていないと、周囲の弱い立場の人に厄が移る」という話を聞いたことがある方も多いでしょう。結論から言えば、厄そのものがウイルスのように他者へ物理的に飛び火するという科学的根拠はありません。しかし、なぜこれほどまでに「厄年で周りの人が不幸になる」「家族が巻き込まれる」という噂が根強く定着しているのでしょうか。
大きな理由の一つに、心理学でいう「確証バイアス」と「カラーバス効果」が挙げられます。厄年であることを強く意識している期間中は、日常的に起きる些細なトラブル(配偶者の風邪、子供の小さな擦り傷、家電の故障など)をすべて「厄のせい」と関連づけて記憶に刻み込んでしまう傾向があります。平常時であれば「たまたま重なっただけ」と片付けられる出来事が、厄年というフィルターを通すことで「厄が周りに影響を与えている動かぬ証拠」として脳内で処理されてしまうのです。
民俗学の観点では、厄年は「役年」とも表記され、地域社会や家庭内において重要な重責を担う年齢と位置づけられてきました。一家の大黒柱や家事を差配する要となる人物が担う責任が重くなる分、その人の精神的・身体的な揺らぎは直ちに家族全体の生活リズムを狂わせます。昔の人々は、家庭環境の連鎖的な変化を「厄の影響」という言葉で戒め合い、互いに警戒を促していたという知恵の側面も見逃せません。