『伊勢佐木町ブルース』は発売と同時に爆発的なセールスを記録し、1968年の第10回日本レコード大賞・歌唱賞を受賞。同年の『第19回NHK紅白歌合戦』への出場を果たします。しかし、ここで昭和の放送史に残る前代未聞のトラブルと機転のドラマが生まれました。
当時、公共放送であるNHKの番組制作基準は非常に厳格で、家族全員がお茶の間で視聴する年末の紅白歌合戦において、冒頭の「あぁん、あぁん」という吐息は「過度に扇情的であり、青少年に悪影響を与える」と判断されたのです。局側から吐息カットの要請を受けた制作サイドと紅組司会陣は、曲の持つインパクトを損なわずに規制をクリアする奇策を模索しました。
そこで編み出されたのが、吐息の代わりにアメリカ生まれの素朴な玩具楽器「カズー(膜鳴笛)」を口にくわえて「ブー、ブー」と音を鳴らすという奇抜なアイデアでした。本番ステージでは、白組司会の坂本九や紅組司会の水前寺清子らが見守る中、青江三奈がカズーを吹き鳴らしながら登場。お茶の間は爆笑と驚きに包まれ、このハプニング的な対応は翌日の新聞各紙や週刊誌で大きく報じられました。規制を逆手に取ったエンターテインメント精神は、現代のバラエティ演出の源流とも言える名場面です。