佐々木の真価が最も発揮された隠れた名シーンとして語り継がれているのが、柏葉監督の眼病にまつわる描写です。予選が進むにつれ、柏葉監督の目が重い病(網膜剥離)によって光を失いかけていることに、佐々木はいち早く気づきます。
鬼のように恐れていた相手であるにもかかわらず、佐々木は監督を憎むどころか、その孤独な戦いを静かに案じ、目薬を差し出すなど献身的な気配りを見せます。柏葉監督にとって、明青野球部はかつて自分を裏切り、夢を奪った憎悪の対象でした。しかし、最も過酷に痛めつけたはずの佐々木から向けられた純粋な気遣いと敬意は、柏葉の頑なな心を内側から溶かしていきました。
甲子園予選決勝の須見工業戦、延長戦にもつれ込む死闘の中で、ベンチから誰よりも大きな声で声を張り上げ、ナインを鼓舞し続けたのは佐々木でした。試合終盤、視力をほぼ失いながら采配を振るう柏葉監督の「目」となり、グラウンドの状況を伝え続けた佐々木の姿は、読者の涙を誘った珠玉の名場面です。