だが、彼に対する評価が単なる「強い敵キャラ」で終わらない最大の理由は、その過去の壮絶さにある。物語のクライマックスで明かされる人間時代の記憶——「狛治(はくじ)」としての人生だ。
病気の父親に薬を買うためスリを重ね、全身に罪人の墨を彫られた少年時代。世間から見捨てられた彼を温かく迎え入れ、愛してくれた師匠の慶蔵と、その娘である恋雪。彼女と出会い、共に生きる未来を誓ったことで、狛治の拳は「大切な人を守るための拳」となった。
しかし、隣接する道場の卑劣な毒殺によって、彼の守りたかった日常は一瞬で破壊される。絶望のなかで鬼と化した彼が使う血鬼術——「式・水仙」「式・万葉柳」、そして術式展開の雪の結晶。それらはすべて、恋雪との花火の思い出や彼女が着ていた着物の柄そのものだった。鬼となって記憶を失ってもなお、彼の魂の底には「愛する人を守りたかった」という切ない願いが刻まれていた。