いま一度、このビルが刻んできた歴史に目を向けたい。建設当時は、先進的な意匠を凝らした昭和モダン建築の代表格として脚光を浴び、映画館、ボウリング場、サウナ、キャバレーなどが所狭しと凝縮された総合娯楽殿堂だった。
とりわけ、名古屋市千種区今池という土地が持つ独特のアングラ感と強い親和性を保ち続けたのが、知る人ぞ知る存在だった今池地下劇場だ。地下へと続く階段を降りれば、そこには昭和の濃密なサブカルチャーと映画文化がそのまま残されていた。全国のファンが足を運んだあのディープな空間も、今や時代の波に飲まれ、記憶の底へと追いやられようとしている。
「あのネオンと、深夜まで絶えなかった酔客の叫び声こそが今池の血肉だった」。長年近くで居酒屋を営む老主人は、解体工事の白い壁を見上げながら、ポツリと呟いた。