マグロの頭部、目の下からエラ蓋の奥に位置する左右一対の筋肉、それがほほ肉です。体重100kgを超える大型のクロマグロであっても、1尾から取れるほほ肉は数百グラム程度。全重量の0.2〜0.3%足らずという極めて希少な部位にあたります。
魚肉でありながら「まるで牛赤身肉」と評される理由は、その生体構造にあります。マグロは一生の間、泳ぎを止めることなく口とエラを動かし続けて酸素を取り込みます。咀嚼と呼吸を24時間休みなく支えるほほの筋肉は極めて強靭に発達し、運動量の多さを示すミオグロビン(筋肉色素タンパク質)が赤身部位よりも密集しています。これが、牛モモ肉やヒレ肉を思わせる濃い赤紫色を生み出す根源です。
特筆すべきは、網目状に入り組んだ結合組織と細やかなサシ(脂肪交雑)です。胴体の赤身とは異なり、しっかりとした筋繊維の隙間にゼラチン質のコラーゲンと良質な脂が複雑に入り交じっています。管理栄養士の児玉智絢氏が監修した食品分析データ等によると、ほほ肉は100gあたり約115kcal、高タンパク質(約22g)を誇りながら、牛サーロインと比べて脂質が圧倒的に低く、貧血予防に役立つヘム鉄や抗酸化作用を持つタウリン、DHA・EPAを豊富に含みます。ヘルシーでありながら赤身肉の力強いコクを堪能できる点こそ、健康志向のグルメ層から熱烈に支持される最大の要因です。