日本人の多くが幼少期から耳にする最もポピュラーな説は、伝統的なカードゲームである花札を用いた博打「おいちょかぶ」に由来するというものだ。
おいちょかぶのルールでは、配られた3枚の札の合計数の下一桁が「9」に近いほど強い。ここで「8・9・3」の目を引いてしまうと、合計は「20」となり、下一桁は「0(カブ・ブタ)」となって完全に勝負権を失う。つまり「何の役にも立たない手」「最悪の組み合わせ」を意味する。
社会の規範から外れ、生産的な労働に従事しない自嘲と開き直りを込めて、渡世人や無法者たちが自らを「八九三(ヤクザ)」と呼び始めたのが発端とされてきた。自らをあえて「役立たずのクズ」と規定するペーソスと反骨精神。このストーリーの持つ分かりやすさと情緒が、通説として定着する原動力となったのは疑いようがない。