なぜイカは10本、タコは8本という腕の数に行き着いたのでしょうか。その起源は、古生代カンブリア紀からオルドビス紀にかけて繁栄した軟体動物の祖先種に遡ります。
現生する原始的な頭足類である「オウムガイ」は、殻の中に籠もり、吸盤のない細い触手を約90本持っています。古生代の頭足類は多数の触手で海底の有機物を拾い集めていましたが、中生代に入り、遊泳力に優れた魚類や海生爬虫類が台頭すると、鈍重な殻を持ったままでは生存競争に勝ち残れなくなりました。
そこで頭足類の祖先は殻を体内に埋没・退化させて軽量化を図り、運動性能を極限まで高めました。その過程で無数にあった触手は「獲物を瞬時に捕らえるための高精度アーム」として10本に統合・洗練されたと考えられています。
その後、海底の岩陰や砂地に潜り込んで待ち伏せ型の捕食を行うグループは、遊泳用の触腕を必要としなくなり、8本の腕を多目的に変形させる「八腕形類(タコ)」へと分岐しました。一方、外洋の三次元空間を高速遊泳しながら狩りを続けるグループは、触腕を究極のハンティングツールとして研ぎ澄ませた「十腕形類(イカ)」としての進化を歩み続けたのです。