結婚指輪を左手薬指に着ける慣習は、およそ紀元前3世紀の古代ギリシャ・ローマ時代まで遡ります。当時の医学では、「左手の薬指には心臓へ直接つながる太い血管(Vena Amoris=愛の血管)が通っている」と信じられていました。心臓は人間の感情や魂、愛を司る中枢と考えられていたため、愛の血管が走る左手薬指にリングをはめることで「相手の心を永遠に繋ぎ止める」という意味が込められたのです。
解剖学が発達した現代では、すべての指から心臓へと血管が均等に巡っていることが証明されていますが、このロマンチックな象徴性は形を変えずに受け継がれました。さらに、実用的な側面も見逃せません。右利きの人が圧倒的多数を占める人類において、使用頻度が低く傷つきにくい左手薬指は、大切な貴金属を保護する上で最も理に適ったポジションだったという実務的な理由も存在します。
日本にこの文化が定着したのは、明治維新以降の西洋化および昭和30〜40年代の高度経済成長期です。ブライダルジュエリーメーカーのプロモーションやキリスト教式結婚式の普及に伴い、「結婚指輪=左手薬指」という認識が国民的な常識として定着しました。