都立墨田工業高校を卒業した青年・豊田潔(のちの木久扇)が最初に抱いた夢は、高座に立つ噺家ではなく漫画家だった。絵心に恵まれた彼は、政治風刺やカッパの絵で一世を風靡した人気漫画家・清水崑の門を叩き、書生兼助手として身を寄せることになる。
アトリエでの下積み生活は多忙を極めた。原稿の差し入れや来客の応対をこなす中で、青年の持つ独特の間と喋りのセンスが師匠の目に留まる。「君は絵を描くより、口を動かす方が向いている」。清水崑のこの一言が、一人の青年の運命を大きく変えるきっかけとなった。師の強い薦めを受け、彼は未練を残しつつも話芸の世界へと足を踏み入れ直す決意を固めたのである。