なぜ彼女の美貌はこれほどまでに国境を越えて人々を惹きつけたのか。その秘密は、彫りの深いエキゾチックな顔立ちと、舞台仕込みの無駄のないプロポーションの絶妙な調和にある。東洋的な神秘性を湛えながら、西洋のグラマラスな女優陣と並んでも引けを取らない骨格とウエストのくびれは、当時の日本人女優のなかで唯一無二だった。
その規格外の魅力に目をつけたハリウッドのMGMは、1956年の超大作映画『八月十五夜の茶屋』のヒロイン・芸者の蓮花役に京マチ子を大抜擢する。現場で相対したのは、当時ハリウッドのトップスターとして君臨していたマーロン・ブランドと名優グレン・フォードだ。全編英語劇という極めて高いハードルのなか、彼女は持ち前の豊かな表情とパントマイム的な愛らしさで見事に演じきり、現場のスタッフを虜にした。
妥協を許さないマーロン・ブランドも彼女の勘の良さとプロ意識を絶賛し、撮影合間には互いに演技論を語り合うほど深い信頼関係を築いたという。この好演により、京マチ子はゴールデングローブ賞の主演女優賞(ミュージカル・コメディ部門)にノミネートされるという、アジア人女優として歴史的な快挙を成し遂げた。