なぜズワイガニは10本すべての脚を外に出し、タラバガニは2本の脚を体内に隠すようになったのでしょうか。その決定的な理由は、両者がたどった進化の道筋の違いにあります。
ズワイガニは生物学的に「エビ目・カニ下目(短尾下目)」に属する純然たるカニです。一方、タラバガニは「エビ目・ヤドカリ下目(異尾下目)」に属しており、分類学上はヤドカリの直系近縁種にあたります。名前に「カニ」と付いていながら、タラバガニはカニよりもヤドカリやヤシガニに近い生き物なのです。
ヤドカリの体を思い浮かべてみてください。ヤドカリは巻貝の殻を背負って外敵から身を守るため、胴体の後半にある第4脚と第5脚を極端に小さく進化させ、貝殻の内壁に体を固定するストッパーとして利用してきました。太古の昔、タラバガニの祖先は巻貝を背負う生活様式を捨て、自らの甲羅を極限まで硬く・棘だらけに発達させて外敵から身を守る「自立した甲羅」を獲得しました。しかし、貝殻生活の名残であった退化した小さな脚(第5脚)だけは元に戻ることなく、甲羅の内部に折りたたまれたまま現在に至っています。
この生物学的な出自の違いは、食卓における「味わい」や「食感」の明確な差異としても現れています。繊細な筋繊維と上品な甘み、そして濃厚なカニミソを誇るズワイガニに対し、ヤドカリの仲間であるタラバガニは太い筋肉組織を持ち、ロブスターや伊勢エビを想起させる力強い弾力とジューシーな食べ応えが持ち味です。なお、タラバガニのカニミソは油分と水分が多く、加熱しても固まらない性質があるため、通常は水揚げ後の加工段階で綺麗に取り除かれて流通します。