『飛行艇』の制作背景を紐解くと、バンドのスケールが急拡大していた時期の危機感と野心が浮き彫りになります。当時、大ヒットを記録していた『白日』の繊細で内省的なアプローチとは対照的に、常田大希が目指したのは「フジロックのメインステージや巨大スタジアムで地鳴りを起こすロックチューン」でした。
レッド・ツェッペリンやブラック・サバスを彷彿とさせる骨太なリフ、ヒップホップ以降の808サブベースが組み合わされた重心の低いビートは、野外フェスやアリーナの最後列まで物理的な音圧を届けるために極限まで研ぎ澄まされました。当時の音楽メディアのインタビューにおいても、常田は「スタジアムで全員が拳を突き上げて大合唱できる曲を作りたかった」と明確に語っています。
さらに、全日空(ANA)の国内線テレビCMソング「ひとには翼がある」篇へのタイアップ起用も、楽曲の社会的浸透を決定づけました。航空会社のCMでありながら、軽やかな飛行ではなく、荒波を蹴って飛び立つ無骨な「飛行艇」をモチーフに選んだ点に、タイアップの枠組みさえも自らの表現へと昇華させるKing Gnuの強靭な作家性が表れています。