ネット空間で「難読漢字」としてシェアされる画像の中には、学術的・法的な裏付けを持たないものが少なからず混在しています。ここで整理しておくべきは、創作漢字と実在漢字の違いおよび難読漢字実在の真相です。
民間イベント(産経新聞社主催の創作漢字コンテストなど)や個人のSNSアカウントで投稿される「座る+人=満員電車」「スマホ+依存=歩きスマホ」といったウィットに富んだ文字は、現代の世相を風刺した「グラフィックアート」であり、言語体系に組み込まれた実在漢字ではありません。これらを歴史的遺産と混同してしまうケースが散見されますが、学術的な実在を担保するのは歴代の字書(説文解字、康熙字典、大漢和辞典など)への採録実績や、公的古文書・戸籍における運用証跡の有無です。
さらに興味深い歴史的盲点が、日本のデジタル規格史に刻まれた幽霊文字の理由です。1978年、通商産業省(現・経済産業省)主導で策定された「JIS C 6226(現在のJIS X 0208)」には、典拠不明の謎の文字が数十文字紛れ込みました。代表例が「妛」「垉」「暃」などです。国語学者の笹原宏之教授らの執拗な追跡調査により、当時の委員会が参照した地名リストや行政資料のマイクロフィルム上で、紙の傷、印字の擦れ、貼り紙の影を原文字の筆画と誤認してコンピューターコードに登録してしまったという驚くべき経緯が判明しました。つまり、官僚機構のヒューマンエラーによって「実体を持たない文字」が国家規格に固定化され、現在も私たちのPC内に眠り続けているのです。