ネット上のQ&Aサイトや家電修理の現場で最も頻繁に持ち込まれる相談が、「お気に入りの掛け時計に新品のアルカリ電池を入れたら、1年後に白い粉を吹いて動かなくなった」というトラブルです。これこそが、掛け時計にアルカリ電池がダメな理由として専門家が警鐘を鳴らす典型例です。
アナログ式のクオーツ時計は、1秒ごとに針をステップ運針させる極めて微弱なパルス電流(数マイクロアンペア〜数ミリアンペア)しか消費しません。この超低消費電力機器に大容量のアルカリ電池をセットすると、電池は何年間も交換されずに機器の奥底に放置されます。ここが最大の罠となります。
電池は容量を使い果たして電圧が低下した後も、回路につながったまま放置されるとガス発生と過放電の危険性に直面します。過放電状態に陥ったアルカリ電池の内部では、亜鉛電極の腐食反応によって水素ガスが急速に発生し、密閉された缶の内部圧力が限界まで上昇します。そのまま放置すれば電池缶が破裂するため、底部の安全弁が破れて圧力を逃がす構造になっていますが、その際に内部の強アルカリ性電解液(水酸化カリウム水溶液)が外へ一気に噴出します。
噴出した電解液は空気に触れて炭酸カリウムの「白い結晶」へと変化しますが、その過程で時計の金属端子を緑青化させ、リード線や精密基板の銅箔パターンを完全に腐食・断線させます。大手時計メーカーの取扱説明書にも「指定電池:単3形マンガン乾電池」と明記されているケースが多く、メーカー公式の電池指定を無視したアルカリ電池使用は、保証対象外の故障原因となる事例が後を絶ちません。