大村庵の魅力は、単なる味の良さだけに留まらない。そのルーツを辿ると、日本初のキリシタン大名として知られる大村純忠の時代にまで遡るという驚くべき伝承が残されている。南蛮貿易の玄関口であった肥前国の歴史と、長崎街道を通じて運ばれた異国の香辛料や調理技術が、巡り巡って独自の蕎麦つゆの調合に影響を与えたというのだ。
古文書に記された断片的な記録を紐解くと、当時の武将たちが長旅の陣中食や賓客をもてなす特別な席で振る舞ったとされる粉食文化の知恵が、現在の秘伝のかえしに脈々と受け継がれていることがわかる。乱世を生き抜いた先人たちの記憶を宿す伝統日本料理の粋が、一杯のせいろの中に凝縮されている。