一般的な急性中耳炎であれば、細菌感染による急激な炎症によってズキズキとした激痛や高熱が生じ、鼓膜が赤く腫れ上がるため異変に即座に気付きます。しかし、耳に水がたまる主因となる滲出性中耳炎は、痛みがほとんどないという致命的な落とし穴が存在します。
痛みを伴わない理由は、中耳腔内で急性的な化膿性炎症が起きているのではなく、換気不全に伴う陰圧によって粘膜から非感染性の浸出液がじわじわと滲み出しているためです。神経を直接刺激するような強い炎症反応が起きないため、患者本人は「少し耳が詰まっている」「水が入ったまま抜けない」程度の違和感としてしか捉えられず、数週間から数ヶ月にわたって放置してしまうケースが多発します。
しかし、中耳に水がたまった状態を放置する危険性は極めて甚大です。貯留液が長期間中耳内に留まると、音を内耳へ伝える役割を持つ耳小骨(ツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨)の可動性が著しく低下し、15〜30デシベル程度の伝音難聴が固定化します。さらに長期化すると、鼓膜が中耳の壁に癒着する「癒着性中耳炎」や、骨を破壊しながら進行する難治性の「真珠腫性中耳炎」へと不可逆的な変化を遂げ、将来的な高度難聴や大掛かりな手術を余儀なくされるリスクが高まります。
同様に、風邪やアレルギー性鼻炎、急激な気圧変動などを契機に耳管が狭まったまま閉塞する耳管狭窄症も、中耳腔の陰圧化を引き起こし、水がたまっているような重い耳閉塞感と自声強調(自分の声が響いて不快になる現象)の引き金となります。