株式市場での評価と並んで、就職・転職市場で大きな波紋を広げたのが人事面の構造改革です。ネット掲示板やSNSでは「塩野義が大規模なリストラに踏み切った」との言説が散見されますが、関係者取材と公式発表を突き合わせると、実態はより高度な経営戦略に基づいています。
塩野義製薬の早期退職の理由として挙げられるのは、業績不振による人件費削減ではなく、ビジネスモデルのパラダイムシフトに伴う「人員ポートフォリオの刷新」です。従来の国内製薬ビジネスは、大量のMR(医薬情報担当者)が医療機関を足繁く訪問する対面営業に依存していました。しかし、医療現場のDX化、デジタルマーケティングの進展、そして専門性の高いメディカル・アフェアーズへの移行が進んだ結果、旧来型のMR人員が過剰となったのです。会社側は手厚い特別退職加算金を提示し、中高年層のネクストキャリア支援と並行して、バイオインフォマティクスやデータサイエンティストなど先端IT創薬人材の獲得へと資源を集中させました。
現場社員のクチコミや内部データから浮き彫りになる塩野義製薬の年収と評判は、依然として業界上位をキープしています。30代前半で年収800万円〜900万円に達し、管理職クラスでは1200万円を超えるケースも珍しくありません。評価制度に関しても、年功序列から完全な成果主義・ミッション型へのシフトが進んでおり、「若手でも大型プロジェクトのリーダーに抜擢されれば跳ね上がる」というポジティブな声がある一方、「社内競争の激化や目標達成へのプレッシャーは年々強まっている」というシビアな現実も語られています。
組織の知的高度化を裏付けるのが、塩野義製薬の採用大学の傾向です。研究職および臨床開発職においては、東京大学、京都大学、大阪大学などの旧帝国大学や、神戸大学、慶應義塾大学、早稲田大学の大学院修了者(修士・博士)が大きな割合を占めています。さらに京都薬科大学や大阪薬科大学(現・大阪医科薬科大学)など関西の名門薬科大学からも多数の高度専門職を採用しており、創薬サイエンスへのこだわりが採用現場の厳格な選別基準に如実に表れています。