本作のタイトルは『もう恋なんてしない』ですが、歌詞のサビの結びは「もう恋なんてしないなんて 言わないよ 絶対」という肯定を導く二重否定で締めくくられます。国語の文法通りに解釈すれば、「もう恋なんてしない、とは言わない=いつかまた恋をするつもりだ」という前向きなメッセージに聞こえます。しかし、多くのリスナーがこのフレーズに涙するのは、単なるポジティブ宣言ではない複雑な哀愁が滲み出ているからです。
心理学における喪失のプロセス(キューブラー・ロスの「悲嘆の5段階」など)に照らし合わせると、主人公の心理状態は「否認」「怒り」「取引」「抑うつ」を経て、ようやく「受容」の入り口に立った極めてデリケートな段階にあると読み取れます。本心ではまだ別れを受け入れきれず、未練で胸がいっぱいであるにもかかわらず、「自分は大丈夫だ」「前を向かなければならない」と必死に己を鼓舞する心理的防衛機制(反動形成・合理化)が働いています。
「絶対」という強い断定の副詞を文末に置く倒置法も印象的です。「絶対に言わない」と言い切る姿勢そのものが、そうでも自分に言い聞かせなければ崩れ落ちてしまいそうな孤独の裏返しとなっています。強がりと寂しさが交錯する人間の弱さをそのまま肯定したからこそ、この二重否定は聴き手の心の最も柔らかい部分に突き刺さるのです。