糖尿病性神経障害には、特徴的な出現パターンが存在します。神経線維の長さが関係しているため、通常は体の中で最も長い神経が通っている「足の指先・足の裏」から左右対称に症状が現れます。靴下を履くような範囲から徐々に上行し、膝あたりまで進んだ段階で、ようやく「手の指先」にも手袋をはめるような範囲でしびれが現れるのが定型的な経過です。
つまり、典型的な糖尿病性多発神経障害において手に症状が及んでいる場合、手足のしびれの進行度としてはすでに中等度から重度に達している可能性を意味します。「足は少し冷えるくらいだが、手だけが強くしびれる」という場合、単なる多発神経障害とは異なる別の病態が併発しているケースを疑わなければなりません。
そこで見落としてはならないのが、手根管症候群と糖尿病の密接な関連性です。手根管症候群とは、手首の内側にある骨と靭帯に囲まれたトンネル(手根管)の中で、正中神経が圧迫されて親指から薬指の内側にかけてしびれが生じる疾患です。整形外科領域の大規模研究や臨床報告によると、糖尿病患者は健常者と比較して手根管症候群の発症リスクが2〜4倍に跳ね上がることが判明しています。
高血糖が続くと、手首周囲の腱鞘組織にコラーゲンの糖化が生じて柔軟性が失われ、組織が肥厚して神経を圧迫しやすくなります。さらに、糖尿病によってあらかじめ脆弱になっていた神経は外力や圧迫によるダメージを受けやすくなるため(ダブルクラッシュ症候群)、本来なら問題にならない程度の圧迫でも強いしびれや運動障害を引き起こす構造的リスクを抱えているのです。