角野隼斗という音楽家を語る上で欠かせないのが、日本のクラシック音楽界において極めて稀有な東京大学大学院修了という学歴です。幼少期より数々のコンクールで頭角を現しながらも、彼が選んだ進路は音楽大学ではなく、国内最難関の一般教育ルートでした。
名門・開成中学校・高等学校を経て東京大学工学部計数工学科へ進学。さらに東京大学大学院情報理工学系研究科創造情報学専攻へと進み、人工知能や機械学習を用いた音響信号処理・音楽情報処理の研究に没頭しました。2018年9月にはフランス音響音楽研究所(IRCAM)へ約半年間留学し、最先端の音響数理モデルを学修。2020年3月の大学院修了時には、研究と音楽活動の双方で卓越した成果を挙げた者に贈られる「東京大学総長大賞」を受賞しています。
学問の頂点を極める一方で、ピアノの研鑽も途切れることはありませんでした。大学院在学中の2018年には、国内最大規模のピアノコンクールであるピティナ・ピアノコンペティション特級においてグランプリを受賞。ここからクラシックピアニストとしての本格的なキャリアが加速します。
世界に決定的な衝撃を与えたのが、2021年にポーランドで開催された第18回ショパン国際ピアノコンクールでした。世界中から選び抜かれた精鋭たちがしのぎを削る中、角野は3次予選(セミファイナル)に進出。惜しくも本選(ファイナル)進出は逃したものの、彼がステージ上で見せた知性と情熱が同居する独自の解釈は、現地ワルシャワの聴衆のみならず、公式YouTube配信を通じて世界中のクラシック愛好家を熱狂させました。「音大を出ていない日本人YouTuberがショパンコンクールで奇跡を起こしている」というセンセーションは、既成の音楽界の序列を大きく揺るがす契機となりました。