真木よう子の妖艶さと役者としての底知れない力量を決定づけたのが、2013年公開の映画『さよなら渓谷』です。吉田修一の傑作小説を映画化した本作で、彼女が演じたのは過去に激しい性被害に遭い、加害者と同居しながら生きるという極めて重厚で複雑な宿命を背負ったヒロイン・かなこでした。
劇中で描かれた激しい濡れ場は、公開当時から映画ファンの間で強烈なインパクトを残しました。肌を重ねる生々しさのなかに、愛憎と贖罪が入り混じるエモーションが剥き出しになっており、単なるエロティシズムの枠を完全に超越した表現に到達しています。真木よう子自身も一切の妥協を排し、全身全霊の体当たり演技で役に身を投じました。
この過酷な役作りと熱演は国内外で絶賛を浴び、第37回日本アカデミー賞において最優秀主演女優賞を受賞。同時に『そして父になる』で最優秀助演女優賞も獲得し、同一年ダブル受賞という快挙を達成しました。「脱ぐ」という行為を役の魂を吐き出す手段へと昇華させた彼女の覚悟が、日本映画の歴史に燦然と輝く名シーンを生み出したのです。