二人の出会いは1976年、植村直己氏が世界的な名声を得ていた時期に遡ります。公子さんの兄が明治大学山岳部の関係者であった縁などを通じて知り合い、当時下宿生活を送っていた直己氏が公子さんの自宅を訪ねるようになったことがきっかけでした。
直己氏より5歳年上だった公子さんは、当時すでに自立してタイピストなどの仕事をこなす都会的な女性でした。世界中を飛び回る野性味あふれる冒険家でありながら、普段は人見知りで照れ屋だった直己氏にとって、知的で落ち着いた公子さんは唯一心を許せる安らぎの港となったのです。
1977年に結婚した二人は、板橋区で質素ながら温かい家庭を築きました。直己氏は著書やインタビューのなかで、妻の前でだけ見せる無邪気な一面や、公子さんの手料理を何よりも楽しみにしていた日常を明かしています。極地への出発前には、生きて戻れる保証のない旅立ちを前にしながらも、公子さんは決して取り乱すことなく、直己氏の意志を尊重して笑顔で送り出していました。