ネット上や大衆の間で広く流通している説明のなかに、見過ごされがちな盲点と誤解が存在します。その最たるものが、「春夏冬」は単なる文字不足や、地方のマイナーな方言ではないかという推測です。しかし前述の通り、これは江戸の都市文化のなかで体系化された判じ物であり、全国の宿場町や湊町を通じて日本各地へと広がった正統な商売文化です。
また、もうひとつの根深い誤解は、「秋がないから商売繁盛(売れまくって秋の収穫のように儲かる)」という、強引な好況解釈のみで語られる点です。本来の神髄はそこに留まりません。
江戸の商人が最も恐れたのは、客に「飽きられる」ことでした。移り気な江戸っ子の胃袋と心を掴み続けるためには、常に味を磨き、接客に工夫を凝らさなければなりません。「秋がない」は「飽きが来ない料理を出し続ける」という看板主の強い自戒の言葉でもあったのです。儲けを急ぐ「商い」の欲望を戒め、謙虚に品質を追求する「飽きない工夫」を誓う精神性が抜け落ちてしまっては、この言葉の本当の深みを見失ってしまいます。