インターネット上の言説やニュースコメント欄では、「失業対策や給付金さえ配れば自殺は劇的に減る」「大都市の過酷な競争社会が最大の原因だ」といった短絡的な議論が散見されます。しかし、これらの見解は客観的な統計データと照らし合わせると、重大な誤解を孕んでいます。
第一の誤解は、「自殺は経済困窮層だけの問題である」という認識です。確かに生活困窮は重大なリスク要因ですが、近年の動向では、正社員として雇用され安定した収入を得ている層や、何不自由のない家庭環境にある若年層の自死が無視できない割合を占めています。問題の本質は物質的貧困だけでなく、承認欲求の飢餓や、関係性の断絶に伴う「関係の貧困」にあります。
第二の誤解は、「東京などの大都市圏ほど自殺リスクが高い」という思い込みです。厚生労働省が算出する都道府県別の自殺死亡率一覧(人口10万人あたりの自殺者数)を検証すると、実態は真逆の傾向を示しています。
東京都や神奈川県などの首都圏は、自殺者数の絶対数こそ多いものの、人口比で算出した自殺死亡率は全国平均を下回り、むしろ下位に位置することが一般的です。逆に自殺死亡率の上位常連となっているのは、秋田県、青森県、岩手県といった東北地方や、一部の地方都市・過疎地域です。地方における精神科医療インフラの不足、世間体や「村社会」特有の同調圧力、精神疾患に対する根強いスティグマ(偏見)が、適切な早期治療や相談を阻む障壁となっています。
さらに視野を広げると、世界における自殺率の国際比較データにおいても、日本の異質さが際立ちます。世界保健機関(WHO)の統計において、日本の全年代を通じた自殺率はOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で依然として上位に位置しています。とりわけ特異なのは、G7(主要7カ国)の中で「15歳から39歳の若い世代の死因第1位が自殺である」国は日本のみという痛烈な事実です。他国では事故死や病死が主因となる若年層において、自ら命を絶つ選択が最上位に君臨し続けている現実は、国際的にも極めて異常な事態と受け止められています。