科学界において「ノーベル生理学・医学賞に最も近い日本人」と呼ばれる坂口志文氏。その決定的な坂口志文 受賞理由の中核にあるのが、生体内の過剰な免疫応答を抑え込む特殊なリンパ球、すなわち制御性T細胞(Treg:Regulatory T cell)の発見と機能解明です。
本来、人間の免疫システムは体内に侵入した細菌やウイルス、さらには悪性化した細胞を異物として攻撃・排除する精緻な防御網を備えています。しかし、アクセルを踏み続けた車が暴走するように、免疫が自己の正常な組織まで見境なく攻撃してしまうと、関節リウマチや多発性硬化症、1型糖尿病といった過酷な自己免疫疾患を引き起こします。坂口氏は、免疫系の中に「自己を攻撃させないためのブレーキ役」が存在することを突き止め、自己寛容のメカニズムを分子レベルで証明しました。
かつて免疫学界では、免疫抑制を担う細胞の存在を巡って激しい議論が交わされ、一度はその存在が完全否定されて学術的なタブーと見なされた時代がありました。その逆風を一人で跳ね除け、細胞表面の分子マーカー「CD25」とマスター遺伝子「FOXP3」を手がかりに科学的証拠を打ち立てた執念こそ、坂口氏が世界中で賞賛される最大の所以です。2026年現在、世界の免疫学教科書の記述は坂口氏の発見によって完全に書き換えられており、この業績がノーベル賞に値することに異論を挟む専門家は国際的にも皆無といえます。