部首「扌(手偏・てへん)」は、五本の指を開いた人間の手の象形から生まれた「手」が、文字の偏(へん)として変形したものだ。古代文字研究の第一人者である白川静の文字学によれば、古代において「手」は単なる労働器官ではなく、神への祈りや呪術的な行為、他者との契約を結ぶ神聖な媒体であった。「拝」や「持」といった文字には、当時の精神文化が色濃く刻み込まれている。
一方、東洋学の巨人・諸橋轍次が編纂した『大漢和辞典』をひもとくと、手偏に属する文字数は膨大な数に上る。道具を操る動作、感情の高ぶりを抑える仕草、あるいは空間を操作する技術。人間が進化の過程で手によって世界を開拓してきた歴史そのものが、この偏に凝縮されている。