憲法論議が過熱する際、ネット空間を中心に数多くの不正確な情報や誤解が拡散されがちです。ここでは法制度の客観的証拠に基づき、重要な盲点を検証します。
誤解1:「国民投票法が成立しているのだから、投票のルールは万全である」
現場の法曹関係者や放送関係者が最も危機感を募らせているのが、国民投票法改正の重要ポイントとして残された「広告規制」の欠落です。 現行法では、投票期日の14日前からテレビやラジオでの賛否勧誘CMが禁止されています。しかし、裏を返せば「投票日の15日前まで」は、資金力のある組織や団体が莫大な広告費を投じてテレビCMを大量出稿することが可能です。 さらに深刻なのがインターネット広告の無法地帯ぶりです。現行法にはネット広告に関する規制条項が一切存在しません。AI技術によって精巧に作られたディープフェイク動画、虚偽情報(フェイクニュース)、アルゴリズムによる世論誘導(マイクロターゲティング)が野放しになる恐れがあります。欧米諸国の選挙で顕在化した「デジタル時代の世論操作」に対し、日本の国民投票法は極めて無防備な状態のまま放置されています。立憲民主党などが「広告規制の法改正が先決だ」と主張する背景には、この深刻な制度的欠陥が存在します。
誤解2:「一度国民投票で改正されたら、元に戻すことは二度とできない」
「一度憲法を変えたら後戻りできない」という言説も散見されますが、法制度上は誤りです。憲法改正によって新設・修正された条文であっても、再び憲法96条の手続き(国会の3分の2の発議と国民投票の過半数)を経れば、再改正や元の規定への復元、あるいは削除が可能です。 ただし、国家の最高法規を再び変更するには同等の膨大な政治エネルギーと時間が必要となるため、事実上の不可逆性を伴うことは間違いありません。「あとから直せばいい」という軽率な姿勢は危険であり、一度の投票が持つ不可逆的な重みを認識しておく必要があります。
誤解3:「国会議員の都合だけでいつでも勝手に発議できる」
一部には「政府が都合の良いタイミングでいつでも国民投票を強行できる」という印象を持つ人もいますが、憲法審査会には厳格な運営ルールがあります。憲法審査会は衆参両院に常設されており、審議を円滑に進めるには与野党の筆頭幹事による合意が慣例となっています。強行採決を行えば政権への致命的なダメージとなるため、野党の一部を巻き込んだ実質的な「熟議の体裁」を整えない限り、発議に踏み切ることは政治的に極めて困難です。