出版業界の販売動向データを振り返ると、2018年12月に文春新書から刊行された『一切なりゆき 樹木希林のことば』は、日本出版販売(日販)およびトーハンが発表した2019年年間ベストセラー総合第1位を獲得しました。新書が年間総合1位に輝くのは極めて珍しく、その後2020年代半ばにかけて文庫化された際にも再び文庫ランキングの上位に返り咲くという異例のロングランを記録しています。
これほどまでに樹木希林ベストセラー理由が持続している背景には、世に溢れる一般的な自己啓発本や癒やし系エッセイとは一線を画す「言葉の手触り」があります。多くの人生指南書が「ポジティブに考えよう」「ありのままの自分を愛そう」と呼びかけるのに対し、彼女の言葉は現実の不条理や人間の弱さを直視することから始まります。
「病気になるのも、老いるのも、人間としてはごく自然な変化。それを嫌がったり嘆いたりしても始まらないじゃない」——公の場や雑誌のロングインタビューで彼女が淡々と語ったこのスタンスは、いわば人生の「受容の美学」です。全身にがんが転移したことを公表した際も、自らを悲劇のヒロインに仕立てることなく、淡々とユーモアを交えて日常を暮らす姿が、読者に「無理をして前を向かなくても、現実はただ引き受けて面白がればいいのだ」という深い安堵感を与えました。まさに樹木希林生き方語録は、飾らない本音に飢えていた現代読者の防波堤となったのです。