購入者の不安を最も煽るのが、表面に発生するカビと脂の異臭です。原木を購入して数週間が経過した頃、切断面や皮の縁に綿毛のような白い粉や斑点が浮き出て「腐らせてしまったのではないか」とパニックに陥る人が少なくありません。
まず知っておくべき事実として、生ハム原木における白カビの発生は自然な熟成現象の一環です。本場スペインの熟成庫(ボデガ)でも、ペニシリウム属をはじめとする良性の白カビが表面を覆うことで、有害な雑菌の繁殖を防ぎ、独特の熟成香を生み出しています。したがって、乾燥した粉状の白カビや緑がかった表面のカビは、肉の深部まで侵入していなければ過度に恐れる必要はありません。
ただし、放置すれば風味が劣化し、日本特有の湿気によって有害な黒カビやヘドロ状の腐敗を招くリスクがあります。日常的な生ハム原木のカビ対処法としては、以下の手順を厳守してください。
日常のメンテナンスでは、カビが発生した表面をキッチンペーパーや清潔な布で払い落とし、オリーブオイルを含ませたペーパーで拭き上げるのが基本作法です。アルコールスプレーを直接吹きかける人もいますが、ハムの風味が損なわれるうえ、アルコール揮発後に水分が残って逆にカビを活性化させる原因になります。白カビが頑固にこびりついている場合は、その部分の表面を包丁で薄く削ぎ落とせば、内側の肉質には一切影響ありません。
注意すべき危険信号は、「ツンとする強烈な酸臭やアンモニア臭」「触ったときにネバつきがある」「肉の奥深くまで黒や鮮やかな黄色のカビが浸食している」状態です。これらは過度な湿度によって腐敗菌が繁殖した兆候であり、健康被害を避けるためにも該当部位の大幅な切除、あるいは廃棄を検討しなければなりません。