視聴者の間では長年、「なぜ『踊る大捜査線』は『相棒』や『科捜研の女』のように平日午後に頻繁に再放送されないのか?」「何か放送できない重大なトラブルがあるのではないか」という疑問が囁かれてきました。ネット掲示板やSNSでは出演者の不仲説やスキャンダルに起因する“封印説”まで飛び交いましたが、キー局関係者への取材から浮かび上がってきたのは、極めて現実的かつ構造的な「3つの障壁」です。
第1の要因は、「音楽著作権および原盤権の極めて複雑な権利処理」です。『踊る大捜査線』の代名詞ともいえる松本晃彦氏による劇伴音楽や、海外サントラ・既成曲のサンプリング手法は、90年代後半のテレビカルチャーの頂点を極めた演出でした。しかし、当時の放送権契約は現在のような二次利用や長期的配信を想定しておらず、地上波で全国ネット再放送を行うたびに、巨額の音楽著作権使用料や権利者への許諾手続きが発生します。
第2の要因は、「キャスト陣の肖像権と事務所マネジメントのハードル」です。主演の織田裕二氏、柳葉敏郎氏をはじめ、深津絵里氏、水野美紀氏、ユースケ・サンタマリア氏、そして故・いかりや長介氏など、錚々たる主役級キャストが名を連ねています。物故者の肖像権管理や、過去に事務所を移籍・独立したキャストの契約再整理など、全11話およびスペシャル版を再放送に乗せるための調整コストは通常のドラマの数倍に膨れ上がります。
そして第3の、かつ最大の要因が「フジテレビによる有料プラットフォーム(FOD)への誘導戦略」です。現代の民放キー局にとって、過去のキラーコンテンツは無料の地上波枠で安売りするものではなく、自社サブスクリプションへの強力な加入動機(キラータイトル)として温存することが経営戦略の要となっています。「地上波で見られないからこそ、FODに加入する」という導線を維持することが、ビジネス上極めて合理的な判断となっているのです。