過酷な状況下で戦うボートレーサーたちは、このリスクをどのように受け止めているのでしょうか。引退した元トップレーサーの手記や、ピット取材で明かされる証言からは、外からは窺い知れない過酷な心理状態が浮かび上がります。
ある元選手は、現役時代の特番インタビューにおいて次のように胸中を吐露しています。
「ターンマークに突っ込むとき、前が跳ねて水煙が上がったら何も見えない。その先で誰かが落ちているかもしれない恐怖は常にある。けれど、コンマ01秒アクセルを緩めたら後ろから追突されるか、負けて選手生命が終わる。恐怖を遮断してレバーを握り続けるしかないんです」
ファンや舟券購入者が歓声を上げるスタンドの向こうで、選手たちは「プロテクターを着用していても、プロペラが直撃すれば身体が耐えられない」という厳然たる事実を骨の髄まで理解しています。2020年の松本選手の事故、2022年の中田選手の事故直後、ピット内は重苦しい静寂に包まれ、同走していた選手たちの精神的ショックは計り知れないものがありました。
ネット上の掲示板やSNSでは、「危なすぎるから競技自体をやめるべきだ」「スピードを制限して時速50kmに落とすべきだ」といった極端な意見も見られます。しかし、現場のレーサーたちが求めているのは競技の形骸化ではなく、「突発的なアクシデントが起きた際に、いかに後続艇を強制的に減速させ、回避行動を取らせるか」という運用の仕組み化です。