あの日、麻薬取締部が動いたタイミングはあまりにも鮮烈だった。当時、ピエール瀧はNHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』で足袋屋の店主・黒坂辛作役を好演しており、物語の要となる重要なピースを担っていた。放送中盤での電撃逮捕。公共放送の制作現場は蜂の巣をつついたような大パニックに陥り、急遽代役を立てて過去の放送分までも再編集する未曾有の対応に追われた。
混乱はドラマにとどまらない。長年マネジメントを手がけてきた所属事務所のソニー・ミュージックアーティスツは、即座にマネジメント契約の解除を発表。出演映画の公開延期や差し替え、ゲームソフトの販売停止、さらには過去の出演作の配信停止が雪崩を打って決定した。損害賠償額は十数億円規模に達すると囁かれ、メディアは「ピエール瀧の芸能生命は完全に絶たれた」と一斉に書き立てた。あまりに苛烈なパージ。それが当時の日本の芸能界における“常識”だった。