整形外科の診察室において「注射を打っても全然痛みが取れない」と訴える患者は少なくありません。医療機関の臨床レポートによると、ヒアルロン酸注射で十分な除痛効果を実感できる割合は全体の約6〜7割とされている一方で、残りの3〜4割には期待通りの効果が現れないのが実情です。これには明確な医学的理由が存在します。
まず理解すべきは、ヒアルロン酸注射はすり減った軟骨を元通りに再生させる治療ではないという点です。関節腔内に満ちている関節液の主成分である高分子ヒアルロン酸を補充し、関節のクッション性と滑りを一時的に高めることで、摩擦による炎症と痛みを緩和します。したがって、すでに軟骨が完全に消失して骨同士が直接ぶつかり合っている重度の変形性膝関節症(Kellgren-Lawrence分類グレードIV)では、物理的な緩衝材としての限界を超えてしまい、「打っても全く効かない」という事態に陥ります。
効果を感じにくい主な理由は以下の3点に集約されます。
- 軟骨の摩耗と骨変形がすでに進行しすぎている:関節の隙間が完全に潰れている状態では、注射による潤滑効果だけでは物理的刺激をカバーしきれません。
- 痛みの発生源が「関節内」ではなく「関節外の筋肉・靭帯」にある:膝周囲の筋膜炎や腱炎、鵞足炎(がそくえん)などが主因の場合、関節の中に薬剤を入れても痛みは消失しません。
- ヒアルロン酸に対する局所的な感受性の低下:長期間にわたり注射を繰り返すことで、関節内の慢性的な滑膜増殖が進み、初期のような切れ味の良い効果が得られなくなるケースがあります。