「カチョエペペ(Cacio e Pepe)」という名前は、イタリア中部のローマ方言に由来しています。「カチョ(Cacio)」はチーズ、「ペペ(Pepe)」は胡椒(黒胡椒)を指し、直訳すれば「チーズと黒胡椒のパスタ」となります。
発祥の歴史は古代ローマ時代にまで遡り、アペニン山脈を行き来していた羊飼いたちの過酷な移動生活の中から生まれました。長期間の放牧において、羊飼いたちは腐敗しにくく軽量でエネルギー源となる食材を携帯する必要がありました。そこで重宝されたのが以下の3つの食材です。
- 乾燥パスタ:持ち運びやすく、長期間保存が効く主食炭水化物。
- ペコリーノ・ロマーノ:自家製の羊乳から作られるハードチーズ。塩分濃度が高く、保存性に極めて優れている。
- 黒胡椒(粒):体を芯から温めて血流を促し、寒冷な山岳地帯の夜を乗り切るための香辛料。
鍋ひとつでパスタを茹で、茹で汁の熱でチーズを溶かし、砕いた黒胡椒をたっぷり振りかける。この無駄を削ぎ落とした合理的な食の知恵が、数百年を経て世界中の美食家を魅了するイタリア郷土料理の傑作へと昇華しました。