村山由佳を語る上で避けて通れないのが、実母との激しい葛藤です。公のインタビューや自伝的小説『放蕩記』、手記『母の遺産』などで明かされたその実態は、典型的な「母娘の共依存」と支配的コントロール(いわゆる毒親問題)でした。
幼少期から母の機嫌や期待を損ねないよう「完璧な娘」を演じることを強いられ、作家として成功を収めてからも母からの精神的束縛は続きました。「あなたが書くものは下品」「私の育て方が悪かった」といった否定的な言葉を浴びせられ続け、娘の自立や幸福を許さない母親の心理的圧力に、村山自身も長年深刻な自己肯定感の喪失に苦しめられていたと告白しています。
家族社会学の視点から見れば、これは「心理的バウンダリー(境界線)」が完全に侵食された家庭環境の典型例です。母が亡くなる直前まで続いた愛憎の葛藤は、彼女の作家としての表現欲求を極限まで研ぎ澄まし、人間の心の奥底にある暗部や情念を容赦なくえぐる原動力となったことは疑いようがありません。