なぜバラエティやドラマが当たり前のように配信される時代に、Mステ 配信されない理由がこれほど強固に残っているのか。テレビ朝日の編成関係者や音楽レーベル関係者への取材から浮き彫りになるのは、地上波放送とインターネット配信における「著作権・著作隣接権処理の根本的な乖離」です。
日本の著作権法上、音楽を生放送(または事前収録)でテレビ放映する場合の権利許諾と、インターネット上でオンデマンド配信(公衆送信権)する場合の許諾フローは全くの別物です。歌番組の配信には、以下の要素が複雑に絡み合います。
- 作詞者・作曲者の著作権:JASRACやNexTone等の管理事業者が包括契約で対応可能だが、生放送歌唱のアレンジやメドレー構成に関する個別許諾が必要になるケースがある。
- レコード会社・レーベルの原盤権:番組用の生演奏音源であっても、バックトラックの使用やレーベル専属実演家契約に基づく原盤権者への配慮が不可欠。
- 実演家(アーティスト・バックバンド・ダンサー)の著作隣接権:1回の一括放送と異なり、ネット配信の利用許諾は各芸能事務所や個々の実演家単位で締結する必要がある。
- 海外アーティスト・大物タレントの肖像権・配信契約:海外招聘アーティストや一部の厳格な肖像権管理方針を敷く事務所は、ネット配信許諾料が高額化するか、契約自体が認められない。
- 過去VTR映像(アーカイブ)の二次使用権:Mステ名物の「過去の名シーン特集」では、数十年前の映像に映る当時の全出演者・権利者へ許諾を取り直す必要があり、物理的にクリアランスが不可能に近い。
番組1本につき6〜10組以上のアーティストが出演し、それぞれ異なるレコード会社・事務所に所属しています。仮に1社でもネット配信NGを出せば、その出演シーンだけをカットして配信しなければならず、番組としての整合性が崩壊してしまいます。これらを毎週毎週クリアするための権利処理コストと労力は、無料見逃し配信の広告収益を大幅に超過してしまうのが業界の構造的現実です。