今回のシンナー不足の理由は、局所的なトラブルによる一過性のものではありません。川上の石油化学産業から川下の最終調合に至るまで、サプライチェーン全体に及ぶ構造的要因が幾重にも重なり合っています。
第一の決定打となったのが、トルエンやキシレンをはじめとする芳香族炭化水素の原材料高騰と供給収縮です。ガソリンのオクタン価向上剤としての需要や、アジア圏における化学繊維・プラスチック向け需要の変動により、溶剤用途へ回される基礎留分の枠が世界規模で圧迫されています。ナフサ価格の高止まりに加え、為替レートの円安傾向が輸入コストを一段と押し上げました。
第二に、国内石油化学コンビナートの構造転換が挙げられます。脱炭素社会へのシフトを見据えたエチレンクラッカーの集約・休廃止計画が進展したことで、副生される基礎化学品の国内生産能力そのものが縮小傾向にあります。国内自給率が低下した隙間を輸入材で埋めようとした矢先、地政学リスクに伴う海上運賃の上昇やタンカーの手配難が直撃し、有機溶剤不足の原因が複合化しました。
さらに、消防法上の危険物倉庫の保管キャパシティ不足や、化学物質管理規制の強化に伴う取扱事業者の集約も、流通のバッファ(緩衝在庫)を奪う要因として機能しています。