もし仮に1024画の漢字を原稿用紙に手書きしようとした場合、書き順はどうなるのでしょうか。当然ながら公的な筆順規則は存在しません。一般的な漢字の原則である「上から下へ」「左から右へ」「外側から内側へ」を愚直に適用したとしても、数十分から1時間以上の集中作業を強いられることになります。途中で1画でも数え間違えれば成立しないため、実用書道としては不可能です。
さらに深刻なのがパソコンやスマートフォンでの表示問題です。文字コードの国際標準規格であるUnicode(ユニコード)には、世界中の文字が登録されています。前述の「ビャン」の字は、2020年の「Unicode 13.0」において「U+30EDD」というコードポイントで正式採用され、現在の主要OSではテキストとして表示できるようになりました。
しかし、1024画の創作漢字がUnicodeに収録される可能性は限りなくゼロに近いのが現状です。文字収録には明確な歴史的文献や一定以上の社会的利用実績が求められる上、一般的なフォントレンダリングエンジン(文字描画システム)で1024画ものベクターデータを1文字のグリフ枠(1em四方)に詰め込むと、線同士が完全に潰れて墨だまりになってしまいます。デジタル環境でこの文字を鑑賞するには、テキストデータではなく「画像ファイル」として取り扱うしかありません。