メディアやインターネット上で長年拡散され続けているのが、「満月の夜には犯罪や暴力事件が増える」「精神科の受診者が急増する」という、いわゆるルナ効果(月の狂気=Lunacy)の噂です。この言説は、1970年代にアメリカの精神科医アーノルド・リーバーが提唱した「生体潮汐論」がセンセーショナルに報じられたことに端を発します。
アメリカ心理学会(APA)や各国の司法統計データが繰り返し検証を行った結果、犯罪件数や事故発生率と月齢の間に有意な相関は見つかっていません。それにもかかわらず、なぜ多くの人々が「満月には何かが起きる」と信じ込んでしまうのでしょうか。そこには2つの強力な認知バイアスが横たわっています。
第一に「確証バイアス」です。夜間に凶悪事件が起きたり、街で奇行を目撃したりした際、空に明るい満月が出ていると「やはり満月だからだ」と強く記憶に刻まれます。一方で、満月の夜に何事もなく平和に過ぎ去った記憶や、新月の真っ暗な夜に起きた凶悪事件の記憶は「月の満ち欠け」と結びつけられることなく忘れ去られます。
第二に「自己成就的予言」です。「満月の日はイライラしやすい」「新月の日は落ち込みやすい」という情報を無批判に信じ込むことで、無意識のうちに自身の些細な情動変化を過剰に意識し、自らその通りの精神状態を作り出してしまう現象です。オカルト的な言説に過剰に振り回されることは、不要な不安やストレスを自ら招き寄せるリスクを孕んでいます。