通勤経路の記載が極めて重要であるもうひとつの決定的な理由は、通勤途中の事故に対する「労災補償(通勤災害)」の適用可否にあります。
労働者災害補償保険法(労災法)第7条において、通勤とは「労働者が就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路及び方法により往復すること」と厳格に定義されています。会社へ提出した通勤経路届に記載されたルートは、この「合理的な経路」を証明する公的な基準線となります。
通勤の途中でルートから外れる「逸脱」や、通勤とは無関係な行為を行う「中断」があった場合、その間およびその後の移動中に発生した事故は、原則として労災補償の対象外となります。
ただし、法律では「日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるやむを得ない事由により行うための最小限度の逸脱・中断」については例外を認めています。
・労災が認められる主な例外行為(通勤ルート復帰後は再び補償対象):
1. 日常生活に必要な食料品や日用品の購入(コンビニでの買い物、スーパーでの夕食調達)
2. 独身労働者の外食(経路近くの定食屋での夕食など)
3. 医療機関での診察・治療、医薬品の受け取り
4. 選挙権の行使(投票)
5. 保育所等への子どもの送迎、要介護状態の家族の介護
一方、同僚や友人との私的な飲酒、映画館やゲームセンターへの立ち寄り、趣味の買い物、麻雀などは明らかな「逸脱・中断」とみなされます。これらの行為を行った後は、たとえ元の通勤ルートに戻っていたとしても、その後の帰宅途中に起きた事故は通勤災害として一切認められません。高額な治療費や休業補償が全額自己負担となりかねないため、届出経路の遵守は自己防衛の観点からも不可欠です。