財産犯の基本形を規定する日本の刑法において、窃盗と強盗は条文の構造から明確に区分されています。まずは両者の条文と構成要件を整理し、法が何をもって両者を峻別しているのかを確認します。
刑法第235条が定める窃盗罪の構成要件と罰金について、条文では「他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」と明記されています。窃取とは、占有者の意思に反して財物の占有を自己または第三者に移転させる行為を指します。広く知られる「万引き」も法的には独立した罪名ではなく、万引きと窃盗罪の違いという議論においては、店舗の管理下にある商品を無断で持ち去る典型的な窃盗行為に他なりません。
これに対し、刑法第236条1項に規定される強盗罪は「暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、5年以上の有期懲役に処する」と定められています。ここで司法判断の要となるのが、暴行脅迫の有無と判断基準です。
最高裁判所の確立した判例法理において、強盗罪における「暴行・脅迫」とは、「社会通念上、被害者の反抗を抑圧するに足りる程度」のものでなければならないとされています。単に相手を驚かせる、あるいはわずかに払いのける程度にとどまる場合は強盗の要件を満たさず、相手が物理的・心理的に抵抗できない状態に追い込んで財物を奪う行為が「強取」と認定されます。この反抗抑圧の有無こそが、刑法第235条と第236条を隔てる絶対的な防壁となっています。