インターネット上で「ニシンのパイの元ネタ」として頻繁に名前が挙がるのが、イギリス料理の「スターゲイジーパイ(Stargazy pie)」です。イギリス南西部コーンウォール地方のマウゼル村を発祥とするこの伝統料理は、イワシやニシンの頭がパイ生地から突き出て夜空を見上げているような見た目(Star-gazing=星を見つめる)からその名が付けられました。
しかし、劇中に登場する「ニシンとカボチャの包み焼き」とスターゲイジーパイには、調理法・構造の両面で決定的な違いが存在します。
作中のパイは、白身魚を模した美しい飾りパイ生地とブラックオリーブが整然と並べられており、魚の頭が突き出るようなグロテスクな意匠はありません。食文化研究や公式資料の記述を照合すると、宮崎駿監督が構想の源泉としたのは、スウェーデンやフィンランドなど北欧・バルト海沿岸諸国の郷土料理(ニシンのキャセロールやカレリアパイなど)であると分析されています。
北欧では、塩漬けや燻製にしたニシンをジャガイモや根菜、乳製品とともにオーブンで焼き上げる家庭料理が日常的に親しまれています。作中の港町「コリコ」がスウェーデンのストックホルムやゴトランド島ヴィスビューをモデルに設計されている点からも、北欧の食文化がベースになっていることは明白です。