インターネット上のレシピサイトや動画投稿では、時として誤った調理法が拡散され、せっかくの高級素材を無駄にしてしまう事態が見られます。特に注意すべき2つの誤解を正しておきましょう。
ひとつ目の誤解は、「醤油や酒の強い塩分で煮込めば、下茹でしなくてもアクは自然に抜ける」という説です。これは科学的に誤りです。高濃度の塩分や糖分の中で生葉を加熱すると、脱水作用によって葉の細胞膜が急激に収縮し、アク成分(苦味タンニン)が組織内に閉じ込められてしまいます。その結果、外側は濃い味なのに噛むと猛烈に渋いという最悪の状態を招きます。どんなに急いでいても、熱湯をくぐらせて水に晒す工程を省略してはなりません。
ふたつ目の誤解は、「重曹(炭酸水素ナトリウム)を入れて茹でれば鮮やかな緑色が残り、柔らかくなる」という手法です。確かに重曹は青菜のクロロフィル色素を安定させ、繊維を軟化させますが、山椒のようなデリケートな葉に使うと組織が溶けてドロドロの海苔状になってしまいます。山椒の葉のアク抜きに必要なのは、ごく普通の塩ひとつまみで十分です。
【プロの結論】手仕事に向いている人・市販品を選ぶべき人の判断基準
山椒の手仕事は、春の限られた時期だけに許された贅沢な食体験ですが、すべての人に手放しでおすすめできるわけではありません。自身のライフスタイルや嗜好に合わせて、手作りするか名店の市販品を購入するかを判断してください。
【自家製佃煮作りに向いている人】
- 庭に山椒の木がある、または直売所で新鮮な朝採れの新芽が入手できる環境にある方
- 季節の移ろいを感じる「旬の手仕事」に時間をかけ、指先に残る柑橘系の香りそのものを楽しめる方
- 市販の保存料や高濃度の甘みが苦手で、シビレや香りの強さを自分好みにコントロールしたい本物志向の方
【市販品を購入・活用したほうが良い人】
- 葉柄(軸)を1本ずつ外したり、茹で時間を秒単位で計測するような細かな手作業にストレスを感じる方
- 硬くなってしまった初夏以降の山椒の葉しか手元になく、失敗のリスクを避けたい方
- 年中いつでも一定のクオリティで、少量だけお弁当や酒の肴に添えたい実用性重視の方