名作が長く読み継がれる過程で、インターネット上には時に極端な言説や都市伝説が流布することがあります。『エルマーのぼうけん』に関しても、検索窓に「エルマーの冒険 怖い」「母親 虐待」といった不穏な関連語句が表示されるケースが散見されますが、これらは物語の文脈を無視した明らかな誤解です。
ネット上で「毒親ではないか」と囁かれる原因は、冒頭でエルマーが拾ってきたのらねこにミルクを与えた際、母親が激怒してエルマーを激しく叱責し、猫を外へ追い出すシーンにあります。現代の清潔な都市生活の感覚からすると過剰な折檻に見えるかもしれませんが、当時のアメリカの世相と家庭事情を歴史的に紐解けば、母親の行動は極めて現実的な生活防衛の描写でした。家計が苦しく、衛生管理が厳格でなかった時代において、素性の知れない野良猫を家に入れることは感染症や寄生虫のリスクを直結させる行為だったからです。
また、「どうぶつ島の動物たちを騙して置き去りにした残酷さ」を指摘する声も一部に存在します。しかし、作者のルース・スタイルス・ガネットは動物たちを単なる悪党ではなく、どこか間が抜けていて愛嬌のある存在として造形しています。トラはガムを噛んで満足し、ライオンは三つ編みを自慢し、サイはピカピカの角に喜んでいるのです。エルマーは誰一人として傷つけておらず、一時的に夢中にさせて隙を作ったに過ぎません。相手を殲滅するのではなく、お互いの利害をすり替えて逃走するという「誰も血を流さない解決策」こそが、本作が国際的な教育現場で推奨され続ける決定的な論拠となっています。