臨床現場における近年の調査から、この症候群の背景にある引き金は発症する年齢層によって明確に二分されることが判明しています。子どもの発症と大人の発症では、身体の中で起きている現象の文脈がまったく異なります。 子どもの場合、最大の要因として挙げられるのがEBウイルス(エプスタイン・バール・ウイルス)感染症です。いわゆる「伝染性単核球症」の経過中に、発熱や喉の腫れとともにアリス症状が現れるケースが目立ちます。国際医療福祉大学などの臨床現場でも指摘されている通り、ウイルス感染による一過性の微細な脳炎・脳浮腫が頭頂葉の血流や代謝に干渉することで発症すると考えられています。子どもの脳神経はまだ発達途上でデリケートなため、インフルエンザや一般的な感冒の高熱時にも同様の症状が散発することがあります。 一方、大人の発症において圧倒的多数を占めるのが偏頭痛の前兆症状としての出現です。横浜・センター南の頭痛外来(五良ファミリークリニックなど)の報告や国内外の臨床統計によると、片頭痛患者の約15〜19%が何らかの変視症や身体感覚の歪みを経験しているというデータが存在します。 偏頭痛のメカニズムである「大脳皮質拡延性抑制(CSD)」──脳の神経細胞の過剰な興奮の波が後頭葉から頭頂葉へとゆっくり広がる現象──が、視覚や自己空間認知を司るエリアを通過する際、閃輝暗点(チカチカする光)だけでなくアリス症候群特有の知覚変容を引き起こすのです。
このほか、稀なケースとして側頭葉てんかんの発作、抗うつ薬や咳止めなどの薬剤性副作用、極度の睡眠不足やストレス環境が脳の閾値を下げて引き金を引くこともあります。