登山コミュニティで根強く囁かれる誤謬のひとつが、「頭痛が起きたらロキソニンを飲めば高山病は防げる」という言説です。しかし、高山病予防薬の主役であるダイアモックスと、市販でも手に入る解熱鎮痛薬ロキソニン(ロキソプロフェンナトリウム)では、作用機序が根本から異なります。
ダイアモックスは「炭酸脱水酵素阻害薬」と呼ばれる薬剤です。腎臓での重炭酸イオンの排泄を促して意図的に血液をわずかな酸性に傾けることで、脳の呼吸中枢を刺激します。その結果、高所で無意識のうちに減弱しがちな呼吸回数と換気量が増加し、動脈血中の酸素分圧を物理的に底上げするという、まさに身体を高所環境へ強制的に順応させる効果を発揮します。これがアセタゾラミド効果の本質です。
対するロキソニンは、痛みの発生源であるプロスタグランジンの生成を抑える薬剤に過ぎません。低酸素によって脳組織が軽度の浮腫を起こして発する「危険信号としての頭痛」を麻痺させているだけで、血中の酸素飽和度(SpO2)は危険水準まで落ち込んだまま推移します。これこそがロキソニン高山病効かない理由であり、むしろ重篤な高所脳浮腫(HACE)や高所肺水腫(HAPE)への移行を見落とす引き金になります。