幸福の木に白く可憐な花房がついたとき、一部の愛好家が青ざめるのには科学的な根拠が存在します。「不吉の予兆」という不穏な伝承の正体は、オカルトめいた呪いではなく、開花直後に親株が枯死してしまう確率が極めて高いという園芸現場の実情から生まれた教訓です。
観葉植物として流通しているドラセナ・マッサンゲアナは、本来は熱帯アフリカ原産の低木であり、日本の室内環境下では開花に必要な光量や温湿度が満たされにくいため、栄養成長(葉や茎を伸ばす活動)に終始するのが通常です。それにもかかわらず突然花を咲かせる背景には、環境の劇的な変化や、鉢の中で根が回りきった「根詰まり(ルートバウンド)」、水不足による極度のストレスが引き金となっているケースが散見されます。
植物には、自らの生命維持が困難な極限状態に追い込まれた際、最後に全エネルギーを振り絞って子孫を残そうとする「危機開花(ストレス開花)」と呼ばれる自己防衛メカニズムが備わっています。長年観葉植物のメンテナンスを手がける室内緑化の専門業者も、「鉢植えの幸福の木が開花した場合、それは植物からのSOSサインである可能性が極めて高く、放置すれば蓄えた炭水化物や水分を使い果たして葉を落とし、そのまま枯死に至るケースが多い」と警鐘を鳴らします。花が咲いた後に青々としていた木が急速に黄色く変色し、朽ち果てていく様子を目撃した人々が、「花が咲くと不吉なことが起きる」と畏怖を抱いたのが噂の真因です。