数多くの無権代理トラブルを現場で取材・検証してきた立場から言えるのは、無権代理事案の8割以上が「歪んだ家族関係」と「心理的バウンダリー(境界線)の崩壊」から発生しているという残酷な事実です。
高度経済成長期から続く「家」の概念の希薄化の一方で、日本の家庭内には依然として「親の財産はいずれ自分のものになる」「身内なのだからこれくらい許されるはずだ」という共依存的な甘えの構造が根深く巣食っています。特に近年目立つのが、認知症の初期段階にある高齢親の預金通帳や実印を子どもが無断で持ち出し、自身の事業資金や借金返済のために無権代理契約を結んでしまう事案です。
家族だからと曖昧にしてきた資産管理の杜撰さが、最終的に裁判所を巻き込む民事訴訟へと発展します。無権代理の当事者になってしまった場合、感情論に流されず、法的な損益分岐点を見極めた冷徹な判断が求められます。
「可哀想だから」「世間体が悪いから」と中途半端に本人が一部の支払いに応じてしまうと、裁判実務において「黙示の追認」があったと認定され、全額の責任を背負わされる破滅的なリスクを孕んでいます。身内であっても違法行為には毅然とした拒絶を突きつけることこそが、双方の破滅を防ぐ唯一の防壁です。