オカルトや比喩表現ではなく、現実の生化学的データとしてすずらんは植物界屈指の危険生物です。厚生労働省の自然毒リスクプロファイルでも明確に警告されている通り、すずらんは全草(花、葉、茎、根、果実のすべて)に強力な強心配導体を含有しています。
主たる有毒成分は「コンバラトキシン(Convallatoxin)」、コンバラマリン、コンバロシドなどです。なかでもコンバラトキシンは、ジギタリス(強心薬原料)に含まれるジギトキシンよりも強力で、細胞膜上のナトリウム・カリウムポンプ(Na+/K+-ATPase)を強力に阻害します。その毒性は極めて高く、マウスにおける静脈内投与の半数致死量(LD50)は約0.08mg/kg〜0.25mg/kgと報告されており、人工的な化学兵器や青酸カリと比較しても桁違いに微量で標的を仕留める威力を持っています。
体内に毒素が侵入した場合に現れるコンバラトキシン中毒症状は、臨床現場において極めて劇症的です。
- 初期症状:摂取後数十分から数時間で、激しい悪心、嘔吐、腹痛、下痢、口腔内のしびれが発生。
- 進行期:中枢神経への影響による頭痛、めまい、幻覚、重度の倦怠感、視覚異常(物が黄色く見える黄視症など)。
- 重篤期:心筋の興奮伝達が阻害され、高度の徐脈(脈拍の異常な低下)、期外収縮、心室細動といった致死性不整脈を誘発。血圧降下からショック状態に陥り、最終的に心停止によって息を引き取ります。
日本国内でも、山菜採りのシーズンになると毎年のように誤食事故が発生しています。特に自生するスズランの若葉は、食用山菜である「ギョウジャニンニク(行者大蒜)」や「ウルイ(オオバギボウシ)」の新芽と酷似しており、採取者が誤って混入させて家庭で調理し、一家全員が緊急搬送される事案が後を絶ちません。